AIによる水位予測? 避難情報の発令判断支援ツールの開発
本レポートは、課題提示型支援事業の1つ、行政課題「遅延なく的確な避難情報発令を!膨大な情報をもとにした危険度判断支援ツールの開発」の実証レポートです。
(東海豪雨での新川堤防決壊の様子)
名古屋市は、避難情報の発令基準を定め、避難情報に関わる多種多様な情報の監視及び情報収集を行うとともに、過去の災害の事例や教訓等を加味することにより、避難情報を適切なタイミング、適切な地域に発令できるよう努めています。この避難情報発令は職員の判断によってなされている部分も多分にあり、情報監視及び収集作業の効率化に加え、発令判断における一定の標準化が課題となっています。
この課題に対して、危機対策室と株式会社Specteeは、過去の災害等におけるデータを用い、避難情報の発令判断を補佐するシステムを構築できるかについて検証を行いました。
今回の実証のポイント
今回の実証では、多数ある避難情報の発令対象となっている災害のうち「洪水」に着目し、降水量、時間雨量、河川の状況及び今後の降雨予測から、洪水を事前に予測することが可能かどうかを検証することを目的としました。
具体的には、特定の河川(山崎川)の過去データ(降水時間と降水量、河川の水位)を学習させたAI水位予測システムを作成し、過去データを用いて当該システムが導き出した水位と実際の水位の比較検証をおこないました。
(システムのイメージ)
構築したシステムについて、実際に避難指示が出た2009年10月8日の水位を予測したものが次のグラフです。
(構築したAIによる予測と実測値の比較)
グラフでは、実際の降雨による水位(青の線)とAIによる予測水位(オレンジの線)を示しています。AIは、水位175 cm(氾濫危険水位の約50 %水位)を超えた時点でおよそ25分後には氾濫危険水位に達すると予測しましたが、実際の観測値は約35分後に氾濫危険水位に到達しています。今回の検証では、AIと実測の誤差は約10~15分となっていました。
また、この予測も踏まえながら、仮に降水量が更に多くなった場合、どのような浸水状況になるのか、という浸水シミュレーションもおこないました。
これにより、更に降水量が増えた場合に、どのような浸水被害が想定されるのか?についても事前に把握することができるようになります。
(降水量が35%増えた場合の浸水シミュレーション)
今回のAIについて、まずは山崎川を対象に検証しました。今後実際に避難情報の発令判断を支援するツールとして活用できるものを構築していく中で、よりインプットとなるデータを増やしていくことで精度が高まっていくと期待されます。それには、今回対象とした川以外のデータや、IoTデバイス、河川カメラなどの情報も活用していくことが考えられます。
予測降雨量等をもとに、雨が降る前にどの川が氾濫危険水位に達するのか、それがいつになるのか予測する精度を今後高めていくことで、避難情報の発令判断を補佐するようなシステムを実現できるかもしれません。