自動車中心から人が主役となる道路空間へ。栄の2地点で撮影した映像をAIで解析して、歩行者等の移動実態を面的に調査!

本レポートは、課題提示型支援事業の1つ、新型コロナウィルス関連課題「『最先端モビリティ都市』の実現へ向けて、先進技術を活用して人の動きを調査したい !」の実証レポートです。

名古屋市住宅都市局交通企画課(以下、「交通企画課」という。)では、現在、道路空間をこれまでの自動車中心の空間から、人や公共交通が中心の空間へ転換させることを目指しています。 そのためには、都心部の人の移動実態をエリアで面的に把握することが大変重要です。しかし、従来の調査では調査員による単一地点での交通量の調査しかできず、エリア全体での人の移動実態、人の流れの把握が難しいという問題がありました。

そこで、交通企画課と株式会社インテージテクノスフィア(以下、「インテージテクノスフィア社」という。)は、今年度のHatch Technology NAGOYAの社会実証として、栄の交差点周辺を対象に、離れた2地点にカメラを設置し、バス利用者や歩行者・自転車の交通量や動線をAIにより解析する実証を行っています。

映像の撮影は昨年11月に、2日に分けて行いました。交通量は、曜日や時間帯によって大きく変わります。そこで平日と休日を選んで、それぞれ朝7時から夜の7時までカメラを回し続け、バス利用者や歩行者・自転車の往来を撮影し続けました。この時期は17時近くになるとだいぶ暗くなりますので、暗くなっても被写体の明るさの変化を明瞭に検出できる「イベントセンサーカメラ」という特殊なカメラも用意して撮影に臨みました。

カメラは2か所に設置

暗闇でも被写体の明るさの変化を明瞭に検出できる「イベントセンサーカメラ」で撮影した映像

<撮影場所>中区錦三丁目25番20号付近

<今回の実証のポイント>

本件で協働頂いているインテージテクノスフィア社は、調査会社大手のインテージグループの一員で、AIやIT技術を駆使した調査やデータ解析に数多くの実績をもつ企業です。撮影から映像解析まで、インテージテクノスフィア社と共に実施しています。

今回のAIを用いた映像解析についてご紹介します。

人や自転車の動線を把握するためには、映像で検出した人や自転車を、映っている間中、同一人物として認識していなければなりません。かなりのスピードで走り抜ける自転車や、一瞬物陰に隠れて映らなくなってしまった人物を、同じ人物と判定してその動きを把握する必要があります。こうした一連の解析に活躍するのがAIです。

人や自転車を検出するとボックスを表示。それぞれ個体認識用のID番号を付与

AIは、動画を静止画の連続として1枚1枚分析します。まず、1枚目の映像に映りこんだ人や自転車をAIで検出して、識別するための番号をつけます。そして、次の瞬間の映像を分析して、同じ人物であると判定できたら同じ番号を付与します。

同じ人物であるかどうかは、

①予測される移動先と実際の位置との近接性に基づいて判断する技術

②画像特徴の類似性に基づくマッチング技術

という2つのAI技術が用いられます。

①は動く前と後を比較して、前はここにいたから次はここにいるだろうと予測して同じ人物として認識するというもの、②は動く前と後で、同じような特徴を有しているかで同一人物として認識するものです。一つのカメラで撮影した映像の解析では主に①の技術が用いられ、補完的に②の技術が活用されているとのこと。このようにして、バス利用者や歩行者・自転車がどちらから来てどの方面に向かったかを把握していきます。

AI技術による動画解析の一例をご紹介します。

画像左に自転車を検知、識別番号10を付与します。手前の人物に隠れて一瞬見えなくなりますが…

再度出現しても、同じ識別番号10が付与されます。もう一度木に隠れてしまいますが…

やはり再度出現したときには識別番号10のままです

ここまでは、1台のカメラの映像分析ですが、この実証では2台のカメラで撮影した映像でどちらにも映っている人を特定し、どこからどこに移動していたのか分析を行います。

この別々の地点で撮影した映像を連結して分析する技術は、現時点ではかなり難しい技術で、チャレンジングな取り組みです。

今後、AIにより人や自転車の交通量を効率的に調査することができ、また、2つのカメラ映像から人や自転者の動線をAIで解析し、「面」として移動実態を調査できる仕組みの構築ができれば、今後の交通施策立案やまちづくりに新たな可能性を提示できるのではないかと期待しています。


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