スポーツ市民局 地域振興課 × 株式会社はこぶん
成果報告レポート

1. プロジェクトの背景・課題

名古屋市では、町内会・自治会など地域活動の担い手不足が深刻化しており、加入率の減少、役員のなり手不足、活動への参加意欲の低下など、地域コミュニティの基盤に関わる課題が山積しています。特に若年層を中心とした「距離感」や「関心の薄れ」が進行しており、従来の調査方法ではその背景にある“本音”を引き出すことが困難でした。

こうした現状を踏まえ、住民の率直な声を拾い上げる新たな仕組みとして、AIとデジタルツールを活用した実証を行いました。住民の生の声を広く・深く・効率的に収集・分析することで、地域活動の再設計につなげることを目指しました。
2. 社会実証の内容
本実証では、株式会社はこぶんが開発した「ホンネPOST」を活用しました。これは、スマートフォンやPCから“デジタル手紙”のように匿名で自由な意見を投稿できるシステムです。

市内の区役所、公共施設、地域イベントなどでQRコード付きのポスターやカードを配布し、地域住民の目に留まりやすい場所に展開しました。

投稿内容は、感情分析AIを用いてテキストデータとして処理し、複数の分類軸でグループ化。住民のニーズや不満、アイデアを可視化することで、地域活動に対する多様な本音を客観的に把握しました。さらに、町内会長らとのフィードバックワークショップも開催し、住民の声をもとに次のアクションへとつなげる議論を実施しました。

3. 検証結果・効果
本実証では、地域活動に対する住民の本音を把握するため、デジタルツールとAIを組み合わせた仕組みの有効性を検証しました。
まず、投稿件数は1,154件にのぼり、1件あたりの平均文字数は146文字、総計では約16万8,000文字と、非常に多くの自由記述が集まりました。年代・性別・居住年数・自治会加入の有無に偏りがなく、多様な属性の住民の声を網羅的に収集できた点が大きな成果です。

集まった投稿は、生成AIを用いた自然言語処理により、「楽しみ層」「義務感層」「潜在離脱層」「参加障壁層」「批判的観察層」「無関心層」の6タイプに分類。とくに“潜在離脱層”“参加障壁層”といった、従来のアンケートでは把握しづらかった層の内面を構造的に可視化することができました。
さらに、収集した投稿に対して職員から匿名で返信できる機能も活用し、市民との双方向コミュニケーションが成立したことは、単なる情報収集にとどまらず、関係性構築の側面でも新たな手応えを感じる結果となりました。

こうした一連のプロセスにより、「声の集め方」「聞き方」「分析の活かし方」における新たな地域コミュニケーションの形が見えてきました。
4. 今後の展望・課題
今回の実証を通じて、住民の「ふと伝えたくなる気持ち」をすくい上げる仕組みを構築できたと考えています。従来のアンケートでは得られなかった、生活実感に根ざした声が多数寄せられ、AIによる自動分析との組み合わせによって、職員の業務効率も大きく改善されました。
今後は、属性別の分析や追加設問の導入、モデル地区での地域活動モデルの提案・実装を進めていきます。また、投稿を一過性で終わらせないための継続的な運用体制づくりや、生成AIの判定結果をどう現場の判断に活かすかといった実装面での工夫も求められます。
地域活動の再設計において、市民の声を出発点とするプロセスを確立し、誰もが参加しやすいまちづくりの実現に向けて取り組んでいきます。

5. 実証事業者について
株式会社はこぶん
代表取締役 森木田 剛
設⽴ 2022 年 4 ⽉
本社所在地 東京都世田⾕区北沢⼆丁⽬ 11-15 ミカン下北A街区4階