教育委員会事務局 科学館総務課 × 株式会社Algomatic
成果報告レポート

1. プロジェクトの背景・課題
名古屋市科学館では、「見て、ふれて、たしかめて」を基本理念に、体験型展示や実演を通じて科学の魅力を発信しています。しかし、近年の訪日外国人の増加に伴い、外国語での解説や案内のニーズが高まっており、既存の多言語化対応(パネル・パンフレット)では十分とは言えない状況でした。
とりわけ、プラネタリウムやサイエンスショーのようなライブ型展示は、リアルタイムの対応が困難で、外国人来館者にとって参加しづらい体験になりやすいという課題がありました。こうした背景を踏まえ、生成AIやリアルタイム翻訳技術を活用し、誰もが科学を楽しめる環境づくりに挑戦しました。
2. 社会実証の内容
本実証では、AIスタートアップの株式会社Algomaticと連携し、以下の3つの実証項目に取り組みました。
①サイエンスショーのリアルタイム翻訳:
演者の音声をAIが文字起こし・翻訳し、スマートフォンで英語・中国語・韓国語の字幕をリアルタイム表示。

②展示物の多言語解説動画:
21点の展示について動画を作成し、YouTube上で多言語字幕付きで公開。展示にQRコードを設置して誘導しました。
③館内スタッフ向け通訳アプリの導入:
翻訳アプリをインストールしたスマートフォン端末を貸与し、接客時に活用できる環境を整備しました。
いずれの取り組みも、既存の運営体制に大きな負荷をかけることなく導入できるよう、現場の実情に合わせて構築しました。
3. 検証結果・効果
本実証では、3つの取り組みに対し、それぞれ効果や実装の可能性を検証しました。
まず、サイエンスショーのリアルタイム翻訳では、100回の公演でAI字幕を提供し、外国人来館者の反応や職員の体感をもとに評価を行いました。アンケート回答数は限定的でしたが、「字幕を見ながらうなずく」「ショー後に質問してくる」といった来館者の行動や、「内容を理解して楽しんでくれていた」という職員のコメントが複数得られ、静かな手応えがありました。

展示解説動画の提供においては、約2か月間で1,700回以上の再生が確認されました。展示物ごとの再生回数にはばらつきがあり、QRコードの設置場所や展示自体の視認性・関心度が視聴に影響することが分かりました。この結果から、案内導線や設置デザインの改善が今後の課題として浮かび上がりました。

翻訳アプリの導入では、英語が通じにくい来館者への対応に活用され、特に春節など外国人来館者が多く訪れる時期に職員の不安感を軽減する効果が見られました。言葉の壁に対して備える手段として、現場における価値を確認することができました。

以上の検証から、AIと多言語技術の組み合わせは、運営の効率化だけでなく、来館者満足度向上に向けた重要な要素であることを確認しました。
4. 今後の展望・課題
今回の実証では、科学館のような体験型施設においても、生成AIやリアルタイム翻訳が有効に機能することを確認しました。一方で、翻訳に3〜5秒のタイムラグがあることや、翻訳精度を保つための調整など、技術的課題も見えてきました。
また、展示動画の視聴数の偏りや、翻訳アプリの活用状況のばらつきも、運用面での改善点として認識しました。今後は、展示設計段階から多言語対応を組み込むとともに、より自然なUX設計と周知導線を整えていく必要があります。
AI翻訳や音声解析の技術進化を取り入れながら、外国人来館者も含めた誰もが科学を楽しめる環境づくりを進めていきます。
5. 実証事業者について
株式会社 Algomatic
代表取締役 大野峻典
設立 令和5年4月 13 日
本社所在地 東京都港区六本木三丁目2番1 号 住友不動産六本木グランドタワー24 階
https://algomatic.jp