
かつて「東洋一の大運河」と称された中川運河。現在はスポーツやイベントの場として親しまれていますが、水上交通の新技術導入や脱炭素化の取り組みはまだ十分に進んでいません。そこで名古屋市は、先進技術を活用した社会実証を推進する「Hatch Technology NAGOYA」の一環として、次世代電動操船システム「HARMO(ハルモ)」を搭載した船の実証実験を実施しました。
本プロジェクトでは、株式会社ダイイチとヤマハ発動機株式会社、そして名古屋市が連携し、環境負荷の少ない新たな水上交通の可能性を検証します。また、本プロジェクトは環境影響面の改善にとどまらず、中川運河の水辺の魅力の創出も目的としています。静かで快適な航行を可能にするHARMOにより、市民や訪問者が運河をより身近に感じられるようにすることで、水辺の魅力向上と運河沿いの賑わい創出を目指しています。
今回は令和7年1月17日~19日に実施された、メディア向け説明会および市民向けHARMO搭載船体験乗船会の様子をお伝えします。
次世代電動操船システム「HARMO」とは
HARMOはヤマハ発動機株式会社が開発した次世代電動操船システムで、電動モーターによるリムドライブ方式(※)を採用しています。圧倒的な静穏性と低振動性を実現し、従来のガソリンエンジン式の推進機に比べてCO2排出量削減等の大きな優位性があり、持続可能な水上交通としてのポテンシャルを有しています。
※リムドライブ方式…プロペラを「縁(リム)」で回転させることで、低速でも強い推進力を得ることができる。

メディア向け現地見学会

令和7年1月17日、メディア向けの実証実験現地見学会が開催され、新聞社やテレビ局などのメディア機関が取材に訪れました。
当日はまず、ヤマハ発動機株式会社よりHARMOの技術詳細や特徴についての解説が行われました。実際の操船デモンストレーションも実施され、ジョイスティックを用いた簡単な操作で船がその場で回転する様子や、横移動したりする様子を披露しました。


さらに、HARMO搭載船と従来のエンジン搭載船の騒音比較も実施。取材陣が実際に両者の音を聞き比べ、その静音性の高さを体験しました。
説明会の後半では、HARMO搭載船の走行実験が披露されました。HARMOを搭載した定員8名の船が、「ささしまライブ桟橋 水上バス乗り場」から中川運河沿いの施設「PALET.NU(パレット・ニュー)」までを、時速7~8kmで往復します。

走行実験に同席した記者や関係者からは、「走り出しがとても滑らかだった」「エンジン音が全く気にならず、水を切る音や周囲の街の音が聞こえて新鮮だった」「揺れも少なく、快適に景色を楽しめた」など、従来の船とは異なる快適な乗船体験だったという声が聞かれました。
市民向け乗船会の実施

翌日からの1月18日~19日には、実証実験の一環として市民向けのHARMO搭載船の体験乗船会が開催されました。参加者は事前応募によって選ばれ、中川運河沿いの施設「PALET.NU(パレット・ニュー)」を発着点に、HARMO搭載船で松重閘門までを往復。参加者からは、「音が静かでリラックスできる」「水上からの景色をゆっくり楽しめる」といった好評の声が多く寄せられました。
今後の展望
実証事業者である株式会社ダイイチは、今回のプロジェクトをこう振り返ります。
「私たちは普段から水辺のイベントを企画・運営しており、その都度、イベントに参加された方々が楽しむ様子や喜びの声を見聞きしてきました。今回の実証実験においても同様に、多くの方に中川運河の新しい魅力を体験していただけたことを嬉しく思っています。今回のプロジェクトをきっかけに、引き続き運河の魅力創出のお手伝いをしていきたいと考えています」
また、名古屋市住宅都市局名港開発振興課は次のように話します。
「今回の実証実験を通して、HARMOの静穏性や環境負荷の低減効果を実感しました。屋根付きのクルーズ船でも船内の静穏性は確保できますが、HARMOを活用すれば、屋根のない開放的な船で運河を走ることができ、水上から名古屋の街並みをより身近に楽しめます。おそらく、中川運河をもっと活用したいと考えている人は多いはずです。そうした人たちの思いを形にできるよう、今後も先進技術を活用しながら、持続可能な水上交通の実現と水辺の魅力の創出を目指していきたいと考えています」
今後は、取得した実験データや体験会参加者へのアンケート結果を基にして、HARMOの特徴を活かした新たなモビリティとしての実用化検討など、さらなる取り組みが進められる予定です。
なお当日の様子は、以下のメディアにも掲載いただきました。あわせてご覧ください。
・テレビ愛知:「エンジンやモーターの音は全く聞こえない」リニアモーターカーと同じ原理の小型船が疾走