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地域の助け合いパワーを解明せよ!向社会的行動調査でEBPM支援技術を実現!|地域へのアンケート調査の分析が進んでいます【活動報告】

<背景>

地域における、住民同士の助け合いは、どのような要因で成り立っているのでしょうか?

地域住民の関係性には、人口構成、ライフスタイル、地域特性など、さまざまな要素が影響を与えています。しかし近年では、高齢化や価値観の多様化により、従来の自治会やボランティア活動だけでは地域のつながりを維持することが難しくなっています。

名古屋市でもこの課題に直面しており、持続可能な地域コミュニティを維持するため、あり方を模索していく必要があります。そこで、名古屋工業大学の研究チームと名古屋市が協力し、地域の助け合いの実態を科学的に分析し、エビデンスに基づく政策(EBPM※1)を支援する技術の開発に取り組んでいます。

このプロジェクトでは、名古屋市スポーツ市民局地域振興部地域振興課の協力のもと、3つの学区をフィールドとして地域コミュニティの実態調査を実施し、名古屋工業大学の先進技術を活用して分析を進めています。

<プロジェクトメンバーと保有技術・分担内容>

名古屋工業大学コミュニティ創成教育研究センターでは、工学と人文科学を融合させ、コミュニティづくりを支援する技術の研究開発を行っています。特に高齢社会におけるコミュニティ・ウェルビーイングを高める仕組みを、最新の工学的知見を使いデザインすることを試みています。

本プロジェクトは、コミュニティ創成教育研究センターの構成メンバーである小田研究室、白松研究室に加えて情報工学類の武藤研究室が合同で進める取組みで、比較行動学、生成AI技術、人工社会シミュレーション技術を応用することで、課題の解決を目指しています。

小田研究室では、ヒトの利他性や認知バイアスといった人間の行動特性を研究しています。ヒトは物理世界をそのまま認識するのではなく、進化の過程で形成された認知バイアスに基づいて意思決定を行います。本プロジェクトでは、地域コミュニティの助け合い行動に関するアンケート調査を設計・実施し、向社会的行動※2の要因を科学的に分析します。

白松研究室では、生成AIを活用した自然言語処理技術を研究し、アンケート結果の分析や情報の可視化を支援しています。本プロジェクトでは、アンケート結果から意味を推定し、地域コミュニティや行政などにとって理解・分析しやすいレポートを作成することで、得られた研究成果の社会実装を加速させます。

武藤研究室では、社会ネットワーク分析や統計手法を用いたデータ解析を行い、個人の社会関係資本を測定しています。また、シミュレーション技術を用いて人工社会を構築し、さまざまな社会現象の本質を明らかにする研究を行っています。本プロジェクトでは、地域コミュニティの調査結果を基にシミュレーションモデルを開発し、助け合い行動の要因や影響を分析することで、EBPM支援技術の実用化に向けた検討を進めています。

<プロジェクトの進捗>

現在、3つの学区でのアンケート調査が完了し、データの分析が進められています。分析結果は、向社会的行動の要因特定やシミュレーションモデルへの応用が検討されています。来年度には、社会シミュレーションの実装を進め、EBPM支援技術の実用化に向けた検討を本格化させる予定です。

コミュニティ創成教育研究センターの小田教授は、「地域の助け合いを科学的に解明することで、持続可能なコミュニティ形成に貢献できることを期待しています」と研究の意義と、今後の技術検証への意気込みを示しています。

また、地域振興課の担当者は、「この研究によって、地域の課題解決に向けた新たなアプローチが生まれることを期待しています」と述べています。

本プロジェクトを通じて、先端技術と人文科学の融合により、地域コミュニティの課題に対する新たな解決策を提供し、持続可能な社会の実現に貢献していきます。

※1 EBPM: Evidence-Based Policy Makingの略であり、証拠に基づく政策立案を意味する

※2 向社会的行動: 他者や社会全体に対して利益をもたらす行動のことを指し、助け合いや協力、寄付、ボランティア活動などがそれにあたる