
近年、町内会・自治会など地域活動の参加者が減少しているという課題が全国的に顕在化しています。名古屋市も例外ではなく、町内会加入率はこの10年で12.8ポイント減少し、令和6年4月時点で66.0%にまで落ち込んでいます。
名古屋市はこうした課題に対し、株式会社はこぶん(東京都世田谷区)と連携して、最新のAI技術を活用した実証実験をスタート。その成果を共有する説明会とワークショップが2月25日、市民活動推進センターで開催されました。
「地域活動の本音」を可視化する新たな試み
町内会や自治会は、見守り活動や防災対策、地域の美化など、住みよいまちづくりに欠かせない役割を担っています。しかし、現代の多様化するライフスタイルの中で、地域活動に参加する時間や機会を持てない人が増えているのが現状です。
名古屋市では、地域活動のあり方を見直し、時代に合った形で持続可能にすることが必要だと考え、今回の実証プロジェクトを実施しました。そのポイントとなるのが、市民の「本音(ホンネ)」を可視化し、地域活動をより魅力的にするためのデータを得ることです。
実証にあたっては、(株)はこぶんが提供するコミュニケーションツール「ホンネPOST」を活用。市民が日頃感じている地域活動に関する思いや課題を自由記述形式で収集し、その膨大なデータをAIが分析することで、行政が「本当に知るべきこと」を明らかにすることを目指しました。
従来、行政のアンケートは「決められた質問」に市民が答える形式が主流でした。しかし、この方法では地域活動に関心の低い人の意見を十分に収集することが難しく、深い洞察が得られにくいという課題がありました。「ホンネPOST」は、こうした従来の手法とは異なり、 市民が自由に意見を表現できる仕組みを採用。「デジタル手紙」のような感覚で、気軽に本音を投稿できるのが特徴です。
実証では、SNSや公共施設での案内を通じて市民から意見を募集した結果、 2月28日時点で1,154件の声が集まりました。一人あたり平均146文字、最長1,576文字に及ぶリアルな意見が寄せられたことからも、この新たな手法が多くの市民の関心を引いたことがわかります。

AIによる感情分析
今回の実証実験では、市民から寄せられた約17万文字に及ぶ膨大な自由記述データを、(株)はこぶんが新規開発した「感情分析AI」を活用して解析しました。従来、こうしたデータの分析は手作業で行われることが多く、時間と労力がかかる上、総括的な視点で整理することが難しいという課題がありました。
「感情分析AI」は、独自の分析ノウハウと最新のAI技術を組み合わせることで、埋もれていた市民のニーズや課題を可視化する仕組みです。具体的には、LLM(大規模言語モデル)を活用し、データの前処理やプロンプトの最適化を施すことで、人間特有の行間の読み解きを可能な限り自動化することができるようになり、非構造化された何万文字ものテキストデータから意味のある情報を抽出し、分類や順位づけをすることが可能となっています。
この技術により、専門的な分析スキルを持たない職員でも短時間で本格的なVOC(Voice of Customer)分析が可能となりました。
今回の実証では、「ホンネPOST」を通じて収集された市民の声をAIが分析し、おおよその分類区分を自ら選定して集計を行うなど、かなり実用性の高いところまで調整を⾏うことが出来ました。
説明会・ワークショップの様子

2月25日に開催された説明会では、実証の成果が共有された後、町内会長や地域活動に携わる人々が参加するワークショップを実施しました。
ワークショップは各5~6名の3つのグループに分かれて進行。最初は緊張した様子だった参加者も、自己紹介を通じて徐々に打ち解け、会話が弾む場面が見られました。
ホンネPOSTを活用した意見分析の結果を確認
まず、ホンネPOSTに集まった市民の意見を分析した資料が、参加者に提示されました。一人ひとりが資料に目を通し、「どのような声が多かったのか」「地域ごとに違いはあるのか」などを確認。資料に記載されている内容と自分の町内会の現状を比較したり、参加者同士で意見交換をしたりと、ホンネPOSTの分析結果を起点に積極的な議論が展開されました。
●参加者の声(一部)
・私たちの町内会では、役員の担い手不足が深刻な問題になっている
・地域活動にメリットを感じられない人をどう巻き込むかが課題である
・活動のネガティブなイメージを払拭するにはどうすればいいのか など
理想の地域像を考える

次に、「10年後の自分の地域がどうなっていると嬉しいか?」というテーマでディスカッションを行いました。
ディスカッションでは、理想の未来について次のような意見が聞かれました。
・誰も取り残されない地域
・子どもの声が響くまち
・防災に強いまち
・近所同士で自然に挨拶を交わせる関係
また、理想の未来を実現するために必要な解決策について話し合った際には、「若い世代を巻き込む仕組みづくり」や「役員のインセンティブ制度」、「電子回覧板」、「LINE WORKSの導入」など、幅広い意見が聞かれました。

「私の地域でもやってみたいです!」「すごくいいアイデアですね!」といった前向きな声が飛び交い、参加者同士が刺激を受け合う場となりました。
今後の展望
これまで 「ホンネPOST」 は主に店舗や施設における顧客の声の分析に活用されてきましたが、今回の実証では行政の「市民の声」の分析に応用するという新たな試みに挑戦しました。
地域活動という広範なテーマに関して、多様な市民の意見を収集・分析する難しさはあるものの、この技術が持つ可能性と応用範囲の広さが明らかになりました。
今後も AI分析の精度向上や分析結果の活用方法の検討を進めるとともに、市民の意見をより質の高い議論に活かせる仕組みづくりに取り組んでいく予定です。また、この手法を他の自治体にも展開し、全国的な課題解決につなげる可能性も視野に入れています。
最終的な目標は、多くの市民が「参加したくなる地域活動」を実現すること。引き続き、より持続可能な地域活動のあり方を模索していきます。