Hatch Technology NAGOYA

高機能ビーコンによる分析を用いて、大規模イベント時の混雑を緩和へ【実証レポート】

名古屋市港区の金城ふ頭エリアは、大規模イベントが開催されるたびににぎわいを見せる一方、一部のトイレや飲食店に来場者が集中する点が課題となっていました。

こうした状況を解決するため、名古屋市と東海テレビ放送株式会社・株式会社アドインテが連携し、高機能ビーコンによる分析技術を用いてトイレの混雑を緩和する実証実験を実施。イベント時にトイレの混雑を予測・分析し、来場者へリアルタイムに情報提供することで、混雑の緩和と分散利用を目指しました。

使用する技術:アプリ不要の高機能ビーコン

この実証で使用したのは、(株)アドインテの高機能ビーコン「AIBeacon」です。端末付近に存在するスマートフォンを自動検知できる技術で、スマートフォンのWi-Fi設定がオンになっていれば検出可能。来場者にアプリのインストールなど特別な操作を求めることなく、周囲の混雑状況を把握できるのが大きな特長です。

実験では、金城ふ頭エリア全体に13台のビーコンを設置。各トイレ付近の人の動きを検知し、その数をもとに混雑状況を数値化しました。

このビーコンの検出範囲は1〜150メートルで設定可能であることから、現地のトイレ待機列の様子を踏まえ、最適な計測範囲を検証。また、どの程度の検出数を「混雑」と定義するかについても、実際の人数と比較しながら、より正確に混雑を反映できるよう調整を進めました。

取得したデータは専用のウェブサイトで地図上に可視化され、施設ごとの混雑度や時間ごとの変化が一目でわかる仕組みです。さらに、ウェブサイトの存在を来場者へ周知するため、ポスター等を作成してエリア内の様々な場所へ掲示しました。

現地見学会の様子

2月23日には、メディア向けの現地見学会を開催しました。この日、ウェブサイト上で最初に「混雑」と表示されたのは、ポートメッセなごや近くの大型店舗内のトイレです。

関係者が現場に足を運び検証したところ約30分待ち相当の列ができており、ウェブサイト上の「混雑」表示と現地の状況が合致していることが確認できました。

ただ一方で、トイレの列に並んでいる人に対してウェブサイト画面を提示し、ほかのトイレが空いているという情報を伝えたところ、すぐに移動する人もいれば、そのまま並び続ける人もいるという結果に。混雑状況の見える化には成功したものの、「情報を見て行動が変わるかどうか」はまた別の課題であることが浮き彫りになりました。

まとめと今後の展望

今回の実証実験は、トイレの混雑を「その場だけ」でなく「エリア全体」で捉えることを目的に、周辺施設や最寄り駅などにも協力を得ながら広域的な人流データを収集・分析。リアルタイムの混雑状況をウェブサイトを通じて来場者に届けました。

こうした広範囲かつ複合的な人流解析を行う実証実験は、全国的にも非常に珍しく、類を見ないスケールでの挑戦となりました。

実証の結果、トイレの混雑状況を見える化することには成功し、現地の状況との一致も確認できましたが、「情報を伝えるだけで混雑が解消されるわけではない」という新たな課題も見つかっています。

今後は、今回の実証成果と課題をもとに、来場者にどのような情報をどのような手法で示すのが効果的かを引き続き模索するとともに、エリア全体の回遊性分析などデータ活用方法についても検討を続けていきます。