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衛星画像×AIによる監視システムで、危険な盛土を効率的に発見【実証レポート】

名古屋市では、2025年5月から市全域を対象に「盛土規制法」の運用が始まります。これにより、これまで対象外だった住宅地や農地なども含め、危険な盛土(もりど)による災害リスクへの対策を強化していきます。

とはいえ、「どこで盛土が行われているのか」「危険な状態かどうか」をすべて人の目で確認するのは現実的ではありません。市街地まで含めると対象エリアは広大。日々のパトロールだけでは見落としが生じる恐れもあります。

そこで名古屋市と株式会社Solafune(ソラフネ)が連携し、衛星画像とAIを活用した危険な盛土の自動検出システムを開発・実証しました。

都市部でも機能する、衛生画像×AIの新発見ツール

▲名古屋市プレスリリース(https://www.city.nagoya.jp/en/keizai/page/0000183739.html)より

この実証で使用したのは、光学衛星画像とAIを組み合わせた独自の検出システム。特に注目すべきポイントは以下の通りです。

・光学画像の使用

これまでの盛土検出では、山間部で電波を使った解析(SAR画像)を行うケースが主流でした。しかし今回は、建物や道路が密集する都市部を対象とするため、複数の手法を比較検討。その結果、最も適していたのが「光学画像」でした。

(株)Solafuneはすでに光学画像の解析技術を蓄積しており、その強みを活かすことで、高精度かつ効率的な処理を実現。都市部での光学画像による盛土検出は、全国的にもほとんど前例のない先進的な取り組みです。

・1枚の画像から即座に判定

一般的な検出手法は、時系列の画像を比較し、地形の変化を見つける「差分処理」が中心です。ただしこの方法では、天候や時間帯による撮影条件の違いが影響しやすく、安定した判定が難しいことも。

本システムでは、1枚の衛星画像のみで盛土の可能性を判断するAIモデルを構築し、どのタイミングでも柔軟に対応できる設計としました。

・都市部ならではの誤検出を回避

都市部には、校庭・公園・駐車場・空き地など、土が見えているだけで盛土と誤認されやすい場所も多く存在します。そこで、国のオープンデータなどを活用し、これらを除外するフィルタ処理を追加し、より確度の高い場所だけを抽出する工夫を施しました。

このシステムは、AIが学習した「土の露出パターン」などをもとに、広範囲の衛星画像から盛土の可能性がある場所を抽出。マップ上でその地点を可視化することで、職員が現地をピンポイントで確認しやすくなり、調査のスピードと精度が大きく向上しました。

説明会の様子

2月に行った実証説明会では、名古屋市と技術開発を担った(株)Solafuneの担当者から、今回の取り組みの狙いや成果について報告しました。

市の担当者は、「市街地まで規制の対象が広がるなか、人の目と手だけでは対応が追いつかない。先進技術を活用した効率的な監視体制の確立が急務だった」と課題を説明しました。

(株)Solafuneはこれに応える形で、AIによる自動検出システムを提案。「従来、名古屋市全域の盛土を手作業で調べると約700時間かかるところ、今回のシステムでは数時間で候補地点を抽出できた」と話しました。

また、AIが見逃す可能性をなるべく減らすことを重視した点についても、「危険な盛土を見逃さないことが第一。もし間違いがあっても、そこは人の目で精査すればいい。人とAIの協働体制を目指した実証だった」と強調しました。

今後の展望

今回の実証で、目視確認されていた27件の盛土のうち18件をAIが検出。検出精度は67%と、目標値である60%を上回る成果を達成しました。特に市街地における検出成功は、他自治体にはない先進的な事例といえます。

一方で、農地では誤検出の傾向が強く、今後の学習データ強化やチューニングが必要との課題も浮かび上がりました。

名古屋市の担当者は「AIが危険な盛土の候補を見つけ、人が確認に行く流れが現実的。まずは、すべてを自動化するのではなく、人とAIの強みを組み合わせた体制について今後も検討していきたい。」と展望を語りました。