ひとり親家庭の負担を軽減したい!手続きサポートシステムの構築
要点
・ひとり親家庭が必要な情報を得ることが難しく、支援につながりにくい。
・ひとり親家庭の抱える問題は複合化・複雑化しており、制度も多岐に渡っていることから、職員の経験や知識が不十分な場合、適切な案内ができない。
・利用者が自分の状況を入力することで、利用可能な制度を表示するツールやオンラインでの質問・回答ができるツールにより、適切な情報にたどり着くナビゲーションなどできるかを検証
・利用者の入力内容や質問内容に応じて、自身の状況や利用可能制度一覧、制度に応じた窓口の一覧を作成するツールにより、来庁の際のスムーズな案内につながるかを検証
・市民が自分に必要な行政サービスについて簡単に情報を入手し、制度を利用できる
・同じツールを使って、経験の少ない職員も市民一人ひとりに合わせた適切な相談対応ができるとなおよい
・相談支援全般に応用できるため、本市の他部署のみならず多くの自治体に導入される可能性がある
ストーリー
ひとり親家庭の手続きサポートシステムの構築
私たち子ども未来企画室はひとり親家庭の支援を行っている部署です。
ただ、私たちが直接市民の方とお話しすることはほとんどなく、市民の方の対応は区役所の福祉部(民生子ども課、福祉課、保険年金課)が窓口となっています。
私たちは、ひとり親家庭の手続きをサポートするシステムを構築することで、
「ひとり親家庭の方が支援制度をもっと簡単に受けられるようになる」
「市民の方と実際に接する区役所の福祉部の職員がもっと質の高い行政サービスを提供できるようになる」
という未来を実現したいと考えています。
それでは、どうしてこのような思いに至ったのか、1つずつ、ご説明させていただきます。
ひとり親家庭向けの支援制度
名古屋市のひとり親家庭の数は約3万世帯です。
(平成30年度名古屋市調査 総世帯:1,101,106世帯 母子世帯:25,986世帯 父子世帯:2,973世帯)
ただ、ひとくちに「ひとり親家庭」といっても、その状況は家庭によって異なります。
親の就業状況や経済状況、援助してくれる親族の存在、子どもの年齢など、家庭状況は様々です。
抱える課題は家庭によって違っていますし、課題がいくつも重なっていることもあります。
ひとり親家庭向けの支援として、手当の支給や就業支援、子どもの学習に関する支援など、
様々な制度が用意されていますが、すべてのひとり親家庭が、すべての支援制度を必ず利用できるわけではありません。
支援制度によって対象者の条件が異なるため、
「Aの支援制度を受けられたから、Bの支援制度も受けられる」ということが一概には言えないのです。
ですから、すべての制度について、「自分は対象となるかどうか」を考えなければなりません。
すべての制度のことは詳しくわからないし、区役所に行って相談したらいい! しかし・・・
名古屋市ではひとり親家庭向けの支援制度をまとめた「ひとり親家庭福祉のしおり」「ひとり親家庭等サポートブック」という冊子を発行しています。また、ウェブサイトで各種支援制度について詳細を説明しています。
それらを見れば、家にいながら、「自分は対象となるかどうか」を考えることができます。
ただ、冊子は区役所などへ足を運ばなければ手に入れることはできません。
また、冊子やウェブサイトでは多様な場合に合わせて案内を記載しているので、どうしても細かい説明が多くなりがちです。
膨大な文字の中から自分に合致するところだけ読み取るのは難しいことです。
電話で各窓口に問い合わせることもできますが、耳慣れない言葉が出てくると、
そこでよくわからなくなってしまうこともあります。
結局、区役所に足を運んでいただくことになりますが、区役所に行けばすべては解決するのでしょうか?
答えはNOです。
利用する制度によって窓口が異なっており、それぞれの窓口に行く必要があります。
例)
児童扶養手当⇒区役所の民生子ども課
就業支援⇒ジョイナス.ナゴヤ
医療費助成⇒区役所の保険年金課
就学援助⇒教育委員会
相談事業へのニーズはかなり高い
想像してみてください。
自分が一人で子どもを育てているとします。
市の支援制度を活用したいと思って、ウェブサイトを検索しました。
見たことないような言葉が長々と並んでいて、読んでも読んでも、自身がどこに当てはまるのかわかりません。
電話をしてみようかと思いましたが、制度が複雑すぎて、何を聞いたらいいのかもよくわかりません。
働いているので、平日の8:45~17:30の間に区役所へ行くことは難しい。
とはいえ、支援制度を活用したいため、なんとか仕事を休んで区役所に行きます。
たくさんの窓口を順番にまわり、職員から難しい説明を受けます。
窓口が変わると自身の状況をまた一から説明する必要があります。
話したくない、話しにくいこともあるかもしれませんが、制度を使えるかどうか判断するためには、説明する必要があります。
子どもを連れて区役所を訪れていたとしたら、子どもの様子も見ながらになります。
これがどれだけ大変なことでしょうか。
支援制度がたくさんあっても、活用できる制度にたどりつきづらい現状があることが分かっていただけたと思います。
児童扶養手当のウェブサイトの一部。かなり細かい説明。
どうしたらもっと、制度にたどり着きやすくなるのか。
私たちは、家にいるときや職場の休み時間に、気軽に、支援制度について知っていただけるようにしたいと思っています。
そうすれば、今まで制度のことを知らなった人が支援につながるかもしれない。
難しいし、よくわからないからいいや、と思っていた人が支援を受けられるかもしれない。
困っている市民を一人でも減らすこと、これは公務員の使命です。
ひとり親家庭の手続きをサポートするシステムを作ることができればその使命を果たすことができます。
私たちが想像する未来の姿
自分が一人で子どもを育てているとします。
何かサポートを受けられないか、と思ってスマホから市のウェブサイトを立ち上げます。
スマホ上には、自身の年齢や経済状況、子どもの人数や年齢などの入力欄があります。そこを順番に埋めていきます。すべての入力を終えると、自分が使える制度がパッと表示されます。
制度のうちの一つに「児童扶養手当」がありました。
気になったので、タップすると、その場で質問をすることができます。
どこで申請をしたらいいのか、どのような書類がいるのか、わからないことを解消することができました。
また、QRコードが発行され、区役所へ行った際にQRコードを見せるよう、案内をされました。
後日、仕事を休んで区役所へ行き、児童扶養手当の手続きをしました。
事前に必要書類を確認していたので、手続きはスムーズに進みます。
一緒に来た子どももご機嫌です。
区役所の職員からQRコードを読み込ませてほしい、と言われたので、提示したところ、
自分のことを事細かに話さなくても、他にも使える制度を案内してもらえました。
別の窓口へ行っても、QRコードの読み込みだけで、相手の職員は状況を理解してくれ、手続きはスムーズに進みます。
これがどれだけ便利なことでしょうか。
オフラインの区役所とオンラインを融合することで、良質な市民サービスの提供ができます。
私たちは、中区役所福祉部の職員と協働し、このシステムを実際に中区役所で実証実験したいと考えています。
また、就業支援を行っているジョイナス.ナゴヤも中区にあるため、ジョイナスでの実証実験も可能です。
こんな利点も。
「すべての制度を説明できない」ことにジレンマを抱えている市の職員は大勢います。
このシステムを利用すれば、対応した職員が把握していない制度も表示されるので、
安心して所管の部署を案内することができます。
必要な情報を聞き漏らして誤った案内をしてしまうことや、使えるはずの制度を案内できなかったということも、
少なくなるでしょう。
ミスの削減や、職員の負担軽減は、良質な市民サービスの提供へつながります。
ぜひ力を貸してください
このシステムの構築が実現すれば、ひとり親への支援に限らず、高齢者、障害者支援などにも活用ができると考えます。
また、名古屋市だけではなく、他都市でも導入されるかもしれません。
全市町村に導入され、連携されれば、引っ越しなどの変化が起こっても、履歴などの利用により、市民に負担をかけることなく良質な行政サービスを提供することができます。
私たちの思う未来の実現に、ぜひ、力を貸してください。
募集要項
- 背景
- 名古屋市のひとり親世帯は約3万世帯あるが、家庭によって経済状況や家族構成、子どもの状況などは様々で、抱える課題は個々に違っている。また、ひとり親の支援制度も、利用条件が一様でなく、複雑であることから、利用者が自ら真に必要な制度につながることが難しい。さらに、障害や介護などにかかる支援を必要としている家庭もあることから、窓口が多岐に渡ることになる。
- 課題
-
ひとり親家庭は、仕事をしながら家事、育児を一手に引き受けなければならず、時間的制約がある中で、多くの情報の中から自分で必要な制度の情報を探し出し、支援につながることが困難である。
また、開庁日時が限られる区役所へ足を運ぶこともハードルが高い。区役所へ足を運んだ場合でも、多くの窓口を訪ねたり、自分の状況を何回も説明したりと、負担が大きい。こうしたことから、制度利用をあきらめてしまうひとり親家庭がいることも想像される。 - 求める解決策
- ひとり親家庭が、簡単な入力などで一定の疑問を解消できたり、使える制度の提案を受けることができたりするツールにより、いつでもどこでも、時間をかけずに情報を得ることができるようになる。
また、入力情報をもとに、自身の状況や活用できる制度一覧、制度に対応した窓口の一覧が作成されるツールにより、区役所へ足を運んだ際の市民の負担が軽減される。 - 想定する実証実験内容
-
オンラインで支援内容を探した人が、支援窓口につながり、速やかに申請手続が行われるまでの一連の流れを実証したい。
中区役所、ジョイナス.ナゴヤといった実際に市民が申請に行く現場と連携し、オンラインとオフラインをシームレスにつなぐ市民サービスの提供を実証したい。 - 実証実験成功後の発展性
-
名古屋市の他の分野の支援制度との連携。相談支援全般への応用。
他都市においても同様の相談支援業務があることから、展開可能。 - 提案企業に求める専門性
-
サービスデザインやUX設計の知見、および、オンラインとオフラインをシームレスにつなぐ手法を持っていること。
利用者の選択した情報により複雑な情報から適切なナビゲーションを行うためのサービス、知見を持っていること。 - プロジェクトの進め方・打ち合せ方法
- なるべく密に打ち合わせることを希望。ツールさえあればオンライン会議も対応可能。段階的なユーザーテストを通じて市民の声、および、現場で対応する職員の声を多く吸い上げられるプロジェクトにしたい。
- 提供可能なデータ・環境等
-
ひとり親家庭に関する制度の詳細、制度に関する質問・回答の内容。
実証場所としては中区福祉部及びジョイナス.ナゴヤの提供が可能と考えている。 - プログラム終了後の本格導入
- なるべく予算化して、全区に導入したい。